2012年 10月 04日
観楓図屏風 ~絵に隠された規則性~ 絵画に日本人の空間感覚を垣間見る (1) |
すっかり間が開いております(笑)。
このブログは、
歴史時代(奈良時代~)以前とか原点を垣間見るような民俗とかを中心に書くつもりで
始めたものなんですが、今回はちょっと違う時代。
大して詳しくない分野なので、
もしかしたら的外れな指摘かもしれませんが、
その場合は「優しく」ご指摘くださいませませ(笑)。
…というか、言いたいことをどれだけちゃんと表現できるかも不安なのですが(笑)。
先日、古い展覧会の図録を見ていたところ、ひらめくものがありました。
ひらめいたのはこちらの絵。「高雄観楓図屏風」。国宝です。
タイトルは知らなくても、どこかで目にしたことがある方も多いと思います。
作者は、狩野派の基礎を築いた狩野元信の子供とも孫とも言われている狩野秀頼。
16世紀、室町時代末期の作品と言われています(子か孫かで時代が違ってくるので)。
で、何をひらめいたかというと…
こんな感じ。予想通り。
もう少しきれいな相似形で作りたかったのですが、
使えるソフトがいかんせんペイントのみ、って環境なので…(笑)。
実際紙に定規と鉛筆で線をひくと、
厳密にはともかく、見た感じはきれいな相似形の菱形になりました。
ひらめいたのは、
この絵、菱形の組み合わせっていう、
非常に幾何学的な計算された構成がされてるんじゃないか、ってこと。
もう少し言うと、
線を引っ張ったら規則正しいきれいな無数の直線が引けるんじゃないか、ってこと。
もう一度さっきの画面に戻って。
手前真ん中の池を中心にして、
横の左右 と 上の左右 にそれぞれ絵を配してます。
池横左右は、それぞれ紅葉の下での宴会の様子。
左側が男性の宴会、右側が女性の宴会。
同じ宴会ですが、片や男性、片や女性。対比してます。
上の左右は、左側が神社の参道、右側がお寺の伽藍。
同じ信仰の場ですが、片や神社、片やお寺。で、これまた対比してます。
で、対比はこれだけではなく、画面上下にもあります。
画面の下と上では、人生謳歌満喫の俗なる世界 と 信仰という聖なる世界、
って対比になっています。
真ん中やや下に池を、大きな菱形の配置で置いて、
その左右、上左右に、それぞれ対照的なものを小さい菱形の配置で対称で置く。
すごいでしょーすごいでしょー、この感覚。
ちなみに日本では昔から、
それぞれの四季の象徴的なものを絵にして春夏秋冬で右から左に並べる、
っていう描き方があるのですが、
普通なら、春夏秋冬おんなじようなバランスで絵を配置するのが一般的な中、
この屏風絵では、秋と冬のバランスも均等じゃないんですよね。
冬は左奥にちょろっとあるだけ。
秋の風景、冬の風景を均等に配置するのではなく、
日本人に思い入れの強い、紅葉に彩られた秋の風景で画面のほとんどを作ってる。
古来からの型(伝統)があった中でのこれって、
今考える以上にすごいことだと思うんですよね。
筆者の感性のすごさなんだろうな、と思うわけです。
しかも、これが冬がそこまで迫ってる晩秋の一コマだと考えると、
考えようによっては、山の上の方ではもう雪降ってる、ってなるわけで、
秋と冬の二季を描いた、とも言えるけど、
そういうことで、晩秋の一コマを描いた、つまり秋だけを描いた、とも言えるような、
どっちにも取れそうな絵を作ってる。これもすごい。
話が少し脇道にそれましたが、戻ります。まだまだ続きます(笑)。
で、この絵、単純に菱形で配置を構成してあるだけではないのです。
これ。
どう説明していいのか、私の知識や技量、表現力では難しいのですが、
なんか見た感じすごいでしょ。
なんと、美しい幾何学的構図が下地になってる。
全部に線を引いているわけではありませんが、簡単に引いただけでもこの美しさ。
何気なく描かれている岩や山の稜線のラインや、木々の枝ぶり、
松の葉や岩の並び、池のラインや…etc
そんな流れを線で引っ張ると、こんな感じの美しいラインが引けるのです。
真ん中の上にある山の形や配置もその稜線も、
こうやって見てみると、ただの偶然じゃないですよね。
スゴイでしょー!
飛んでる鳥の向きも、人の配置も、木の曲がり方や枝ぶりも、
何から何まで、このラインを微妙に守っている。
つまり、一見好き勝手に生えているように見える植物が、
その位置のみならず、枝の張り方とか葉のつき方まで計算されている。
もちろん、植物だけではなく、あらゆる部分にそれが及んでいる。
でも、それで出来上がった絵の方は、
こんな幾何学的なものが隠されているとは思えないほど、
アナログ的というか、いわゆる感覚的な日本的な情景で埋まっている。
このテクニックというか、空間構成というか、ものすごいものがありますよね。
そして何よりも、それに気がつかないくらい「絵」として自然に描かれてる。
こうしたラインそのものは絵には載せていないのに、
稜線の傾き、雲の流れ、岩の並び、枝ぶりやそんなものに投影させることで、
見る人の視線が自然に流れていくような、そんな誘導効果と、
規則性から来る落ち着きを作ってる。
すごい感性とテクニック、完成度ですよね。
もっと線を引いてみました。
適当に引いたのではなく、一応なんらかのポイントで引いてます。
モチロンかなり適当な線なのでかなりの誤差やズレはあるのですが、
すべての絵が、
大きな流れとしてはこれらの線の方向に従っているのがお分かりいただけるでしょうか。
まだあります。
図の中に引いた水平の線については、
一番上の何の線も引いていない画像を確認していただければわかると思うのですが、
紙の継ぎ目だったり、絵の際だったり、
ちょっとした境界のような区切り的なものになっています。
で、この水平の区切り的なポイントがまたね、
こんな風に、下から、1:2:3 のおおよその比率になっていて、
これまたすごいんですよね。
とはいっても、この比率が何の意味があるのかは全くわかりませんが(笑)、
この規則性のようなものが、無意識に働きかける絵の流れのようなものを
また別の角度から支えているような気がします。
全体では、3:6:9:4 と、
一番上の「4」の部分がこの規則正しい比率から外れるのですが、
下からの流れで順当に行くと 3:6:9:12になるわけで、
絵を見る人に無意識に、
屏風外に広がる奥行きというか絵の広がりのようものを連想させる働きが
あるんじゃないかな、とか、わかったようなことを考えるわけです(笑)。
こうした画面上の比率にお詳しい方いらっしゃいましたら
ぜひご教示くださいませ。お待ちしております。
そもそもこの比率はかなり大雑把なので、
もしかしたらもっと違う比率が隠れているかもしれません。
実際には、プリントアウトして定規とペンでいろいろ線を引いてみて、
その後でのペイントでの作成になっております。
この屏風は、縦約1.5m×横約3.6mの大きなものなので、
実際には、文中で示したこうしたラインはおおよそ、だと思います。
加えて、画像にする段階で水平とかそういう観点でズレはあるだろうし、
こうやって線を引くと誤差も当然にあるだろうし、
これだけ小さい画像にした上でそれに線を引いていくと、
ますますいろいろ誤差はあるとは思いますが、
全体の視線の流れ、って観点で考えていただければ、
いかに計算された構図か、お分かりいただけると思います。
つづく 大和絵の中の「型」 絵画に日本人の空間感覚を垣間見る (2)
観楓図屏風 ~絵に隠された規則性~ 絵画に日本人の空間感覚を垣間見る (1)
大和絵の中の「型」 絵画に日本人の空間感覚を垣間見る (2)
構図にみる大和絵と漢画の融合 絵画に日本人の空間感覚を垣間見る (3)
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by sayumaratata
| 2012-10-04 23:10